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ハーディング(群集行動)とは|「みんなが買うから買う」を行動経済学で読み解く


SNSで話題の銘柄に資金が集中したり、暴落時に投げ売りが連鎖したり。投資の世界では、「群れ」の動きが相場を大きく揺らすことがあります。

本記事では、投資家が他人の行動に追随する現象として知られるハーディング(herding)を、主要研究や代表的な議論をもとに、できるだけやさしい言葉で解説します。

「なぜ人は群れるのか」「群れた結果どうなるのか」「どう対処すればよいのか」を順番に整理していきます。

※読了の目安:約9〜10分

📌 この記事の要点

  • ハーディングとは、他人の行動を手がかりにして、自分の判断を後回しにしやすくなる現象のこと
  • 源流となる議論には Keynes(1936)の「美人投票」があり、理論化では Scharfstein & Stein(1990)、Banerjee(1992)、Bikhchandani, Hirshleifer & Welch(1992)などが重要
  • 群集行動は情報カスケードを生み、バブルや暴落の一因になりうる
  • SNS時代は群集の伝わる速度がきわめて速く、個人投資家にも影響が及びやすい
  • 対策としては、事前のルール設定、情報源の分散、自動積立の活用などがある
  • 最終的な判断は、読者ご自身の投資目的とリスク許容度に基づいて行うことが重要

そもそもハーディング(群集行動)とは

定義

ハーディング(herding)とは、自分の情報や分析よりも、他人の行動を手がかりにして意思決定してしまいやすい現象を指します。

英語の herd は「群れ」という意味です。動物が群れで動くように、人間も不確実な場面では「みんなと同じなら安心だ」と感じやすいことがあります。投資では、この心理が売買判断に影響することがあります。

なお、一般向けの記事では「ハーディング・バイアス」と呼ばれることもありますが、学術的には herdingherd behavior と表現されることが多く、主に「追随行動」や「群集行動」という現象として扱われます。

源流となる議論と主要研究

研究者主な内容
John Maynard Keynes1936年「美人投票」の比喩で、他人の予想を読む投資行動を示した
Scharfstein & Stein1990年評判リスクに基づく追随行動を理論化した
Abhijit Banerjee1992年群集行動のシンプルな理論モデルを提示した
Bikhchandani, Hirshleifer & Welch1992年情報カスケードの理論を示した
Robert Shiller2000年 ほかバブルと社会的伝染の関係を広く論じた
「プロの投資とは、新聞紙上の美人投票になぞらえることができる。自分が美人と思う人ではなく、他の人が美人と思うであろう人に投票するゲームである」── Keynes(1936)

投資における具体例

① バブル相場での「乗り遅れたくない」心理

1980年代末の日本株バブル、1990年代末の IT バブル、暗号資産ブームなどでは、「みんなが儲かっているのに自分だけ取り残されたくない」という気持ちが買いを加速させたと考えられています。

この心理は FOMO(Fear of Missing Out:取り残されることへの不安)とも呼ばれます。

② 暴落時の連鎖的な売り

急落局面では、企業価値や経済見通しへの不安だけでなく、「他の人が売っている」という事実そのものが追加の売りを呼ぶことがあります。

こうした連鎖は、相場の下落を必要以上に大きくする一因になりえます。

③ SNSでの話題銘柄への殺到

2021年1月の GameStop をめぐる相場では、SNSや掲示板での盛り上がりをきっかけに、多くの個人投資家が短期間に同じ銘柄へ集中しました。

数週間で株価が大きく上昇した一方、その後の変動も激しく、追随した投資家のなかには大きな損失を抱えた人もいました。

④ 「人気だから安心」という商品選び

📌 注意したいポイント

投資信託や個別株を選ぶときに、「売れている商品だから安心」「ランキング上位だから無難」と考えることがあります。もちろん人気商品に合理的な理由がある場合もありますが、中身を自分で確認せず、他人の選択だけを根拠にするなら、それはハーディングに近い判断といえます。

なぜ起きるのか(心理学・行動経済学の観点)

① 情報カスケード(Information Cascade)

Bikhchandani, Hirshleifer & Welch(1992)が示した概念です。前の人たちが同じ行動を取っているのを見ると、「あの人たちは何か有利な情報を持っているのではないか」と考え、自分の情報より他人の行動を優先してしまうことがあります。

たとえば、行列のできた店を見ると「きっとおいしいのだろう」と感じるのと似た仕組みです。

② 社会的証明(Social Proof)

心理学者 Cialdini(1984)は、人は不確実な状況ほど、他人の行動を「正解の手がかり」にしやすいと指摘しました。何が正しいかわからないときほど、「みんながやっていること」が安心材料になります。

③ 評判リスク(Reputational Risk)

Scharfstein & Stein(1990)は、特にプロの投資家にとって、周囲と違う判断をすること自体がリスクになりうると論じました。

「みんなと同じ判断で損をした」場合よりも、「自分だけ違う判断をして損をした」場合のほうが説明しにくいことがあります。こうした心理が追随行動を生みます。

④ 後悔回避(Regret Aversion)

Kahneman & Tversky(1979)のプロスペクト理論とも関係します。

「自分だけ買わなかった」「自分だけ売らなかった」という後悔は強く残りやすく、その後悔を避けるために、多数派と同じ行動を選びやすくなります。

実証研究で何がわかっているか

研究①:Lakonishok, Shleifer & Vishny(1992)

米国の年金ファンドの売買データを使い、機関投資家が同じ銘柄に集まりやすいかを分析しました。

その結果、特に小型株で、一定の追随的な売買が観察されると報告されています。

研究②:Christie & Huang(1995)

相場が大きく動く局面で、個別銘柄の値動きが市場全体の動きにどれだけ近づくかを調べました。

もし極端な相場変動時に個別株の動きが強く似てくるなら、群集行動の可能性があると考えられます。米国市場では、明確なハーディングの証拠はそれほど強くないという結果でした。

研究③:Chang, Cheng & Khorana(2000)

米国、香港、日本、韓国、台湾の市場を比較し、市場によってハーディングの強さが異なる可能性を示しました。

一般に、情報の非対称性、つまり「参加者の持っている情報に差が大きい状態」が強い市場では、追随行動が起きやすいと解釈されています。

研究④:Shiller(2000, 2015)

Shiller は『Irrational Exuberance』で、メディア、投資家心理、社会的伝染がバブル形成に与える影響を、歴史的事例やデータを交えて広く論じました。

IT バブルや住宅バブルを考えるうえで、非常に影響力の大きい議論です。

研究⑤:SNS時代の研究

近年では、X(旧Twitter)や Reddit などの投稿量やセンチメントと、短期的な市場変動との関連を示す研究が複数報告されています。

ただし、ここで重要なのは、相関がそのまま因果関係を意味するわけではないことです。SNSが価格を動かしたのか、価格変動がSNS投稿を増やしたのかは、慎重に考える必要があります。

⚠️ 注意:実証研究は「ハーディングが起こることがある」と示唆していても、その強さや現れ方は市場、時期、投資家層によって異なります。「必ず起こる」「これを利用すれば必ず儲かる」といった単純な結論にはつながりません。

対策・回避方法

① プリコミットメント(事前のルール化)

プリコミットメントとは、感情が動く前にルールを先に決めておくことです。

たとえば、

  • 毎月決まった日に一定額を積み立てる
  • 何%下がっても長期資産は売らない
  • 売買前に必ず一晩置く

といったルールが考えられます。先に決めておくことで、相場が荒れたときの衝動的な判断を減らしやすくなります。

② 情報源を分散する

SNSや特定のインフルエンサーだけを見ていると、同じ方向の意見ばかりが繰り返されることがあります。

そのため、企業の IR、決算資料、公的統計、学術研究、複数の報道機関など、情報源を分けて確認することが大切です。

③ 自動積立・自動リバランスを使う

感情が入りやすい場面では、「考える回数」を減らすこと自体が有効です。

自動積立や定期的なリバランスは、相場の熱狂や恐怖に振り回されにくくする実務的な方法として広く使われています。

④ 「なぜ買うのか」を一文で書く

買う前に、「この商品を買う理由」を自分の言葉で1〜2文だけ書いてみる方法です。

もし理由が「みんなが買っているから」しか出てこないなら、追随だけで判断している可能性があります。

⑤ クールダウン期間を置く

気になる銘柄を見つけても、すぐに買わず、24〜72時間待つルールを決める方法です。

時間を置くと、興奮や不安が少し落ち着き、追随ではなく自分の基準で判断しやすくなります。

対策狙い難易度
プリコミットメント事前ルールで感情を抑える
自動積立売買判断の回数を減らす
情報源の分散偏った情報環境を避ける
購入理由の言語化自分の判断基準を確認する
クールダウン期間衝動的な追随を防ぐ

ハーディングは常に非合理とは限らない

ここで大事なのは、ハーディングがいつも完全に非合理とは限らないことです。

他人の行動から何らかの情報を読み取ること自体は、日常でも投資でも自然なことです。

問題になるのは、誰も自分では調べず、「他人がそうしているから」という理由だけで全員が同じ方向に動く場合です。

この状態では、市場価格が本来持つはずの情報を十分に反映しにくくなり、価格発見機能、つまり「価格が企業価値や情報を反映していく働き」が弱まる可能性があります。

インデックス投資とハーディングの関係

近年では、「インデックス投資の人気そのものがハーディングではないか」という議論もあります。

ただし、インデックス投資を選ぶこと自体が、ただちにハーディングを意味するわけではありません。

  • 低コストであること
  • 幅広く分散できること
  • 長期保有と相性がよいこと
  • 多くのアクティブ運用が長期では指数に勝ちにくいという報告があること

一方で、「人気だから安心」「みんなが持っているから大丈夫」という理由だけで選ぶなら、それは中身ではなく多数派に追随している状態です。

大切なのは、何を買うか以上に、「なぜそれを買うのか」を自分で説明できることです。

よくある質問(Q&A)

Q1. 「みんなが買っている = 正しい」ことはないのですか?

短期的には、多くの人が同じ方向に動くことで価格がその方向へ進むことはあります。

ただし、それは「本当に正しい価値評価」とは限りません。長期では、極端な群集行動がバブルや急落につながった例も多くあります。

Q2. SNSの情報は見ないほうがよいですか?

完全に見ない必要はありません。

ただし、SNSは話題の発見には役立っても、意思決定の根拠としては偏りが強くなりやすい面があります。一次情報や複数の情報源とあわせて使うのが無難です。

Q3. プロの投資家もハーディングしますか?

します。

研究では、機関投資家やファンドマネージャーにも、評判リスクや組織の事情から追随行動が見られる可能性が指摘されています。プロであっても、人間の心理や制度の影響を完全には避けられません。

Q4. 暴落時にどう行動すれば群集に流されにくいですか?

一般には、事前に決めたルールに立ち返ることが有効とされています。

積立を続ける、資産配分を確認する、必要がなければ売らない、といったルールです。暴落の最中に方針を変えたくなったときほど、群集心理の影響を受けていないかを見直すことが大切です。

Q5. ハーディングを完全に避けることはできますか?

完全に避けるのは難しいと考えられます。

人は社会的な存在であり、他人の行動を参考にすること自体は自然だからです。現実的なのは、ゼロにすることではなく、「自分も流される」と理解したうえで影響を小さくすることです。

📝 まとめ

  • ハーディングとは、他人の行動を判断材料にして追随しやすくなる現象のこと
  • 源流には Keynes の美人投票があり、Banerjee(1992)や Bikhchandani ら(1992)が理論的に整理した
  • 背景には、情報カスケード、社会的証明、評判リスク、後悔回避などがある
  • 市場や局面によっては、群集行動がバブルや暴落の一因になることがある
  • SNS時代は群集の広がる速度が速く、個人投資家も影響を受けやすい
  • 対策としては、事前ルール、自動化、情報源の分散、購入理由の言語化などが有効
  • 他人の動きが気になったときこそ、自分の目的とルールに立ち返ることが大切
📚 参考文献
  • Keynes, J. M. (1936). The General Theory of Employment, Interest and Money.
  • Scharfstein, D. S., & Stein, J. C. (1990). Herd behavior and investment.
  • Banerjee, A. V. (1992). A Simple Model of Herd Behavior.
  • Bikhchandani, S., Hirshleifer, D., & Welch, I. (1992). A Theory of Fads, Fashion, Custom, and Cultural Change as Informational Cascades.
  • Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk.
  • Cialdini, R. B. (1984). Influence.
  • Lakonishok, J., Shleifer, A., & Vishny, R. W. (1992). The impact of institutional trading on stock prices.
  • Christie, W. G., & Huang, R. D. (1995). Following the pied piper: Do individual returns herd around the market?
  • Chang, E. C., Cheng, J. W., & Khorana, A. (2000). An examination of herd behavior in equity markets: An international perspective.
  • Shiller, R. J. (2000/2015). Irrational Exuberance.

⚠️ 免責事項:本記事は教育・情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。投資には元本割れのリスクがあり、最終的な投資判断は読者ご自身の責任で行ってください。


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