「暴落日だけ避ければ最強じゃない?」── 理論上は正しい。でも現実には不可能な理由をデータで解説
前回の記事 「投資はタイミングより時間」を読んでくれた方から、よくこんな質問が来ます。
「上昇日を逃すと損するって話は分かった。でも、逆に暴落日だけ避けられれば、もっと得するんじゃない?」
この問い、実はとても鋭い指摘です。そして結論から言うと、理論上は完全に正しい。データもそれを裏付けています。
ところが──現実には、これを実行できる投資家はほぼ存在しません。なぜか? この記事ではその理由を、数字と構造の両面から丁寧に解き明かしていきます。
結論:「暴落日回避」は理論上最強、でも現実には実行不可能
✅ 暴落日(ワースト10日)を避けられれば、リターンは「常に投資」の数倍〜十数倍に跳ね上がる(理論値)
✅ ただし、ベスト日とワースト日は約半数が同じ2週間以内に集中している(暴落と急反発はセット)
✅ さらに売買コスト・税金で理論値は削られ、プロでも実行できない難易度
✅ 結局、現実的に再現可能なのは「市場に居続ける」だけ
1. データで見る:「ワースト日を避ける」の威力
まず、よくある「ベスト日を逃すとどうなるか」のデータをおさらいします。J.P. Morganの分析(2003〜2022年のS&P500)はこうでした。
| 投資行動 | 年率リターン |
|---|---|
| 常に投資し続けた場合 | +9.8% |
| ベスト10日を逃した場合 | +5.6% |
| ベスト30日を逃した場合 | +0.4% |
| ベスト60日を逃した場合 | −4.4% |
では逆に、ワースト日(暴落日)を回避できたらどうなるのか?
BofA(Bank of America)の有名な分析
BofA グローバル・リサーチが 1930年代以降のS&P500を10年区切りで分析した、業界では非常に有名なデータがあります。
- 各10年でベスト10日を逃した場合:累積リターンは大幅に減少。多くの10年でリターンがマイナス転落
- 各10年でワースト10日を回避できた場合:累積リターンは「常に投資」の数倍〜十数倍に跳ね上がる
※ 出典:BofA Global Research(“The Best and Worst Days” 分析)。Hartford Funds、Fidelity も類似の独立分析を発表しており、結果はおおむね一致しています。
📊 つまり、「暴落日回避」のリターンは、「上昇日逃し」の損失よりさらに強力。ここまで聞くと、「やっぱり暴落だけ避ければ最強じゃん!」と思いたくなりますよね。
でも、ここからが本題です。
2. なぜ実行不可能なのか ── 3つの構造的な壁
① ベスト日とワースト日は「双子」のように発生する
これが最大の壁です。市場の大暴落と急反発は、ほとんどの場合セットで発生します。
NedDavis Research や JPMorgan の分析によると、過去20年のS&P500において:
- ベスト10日のうち約半数が、ワースト10日と同じ2週間以内に発生している
- ベスト日の多くは、弱気相場(−20%以上の下落局面)の真っ只中で起きている
- 2008年リーマンショック、2020年コロナショック、2022年の急落 ── どれも暴落直後に過去最大級の上昇日が訪れた
具体例を挙げると:
| 暴落日 | 下落幅 | その直後の急反発 |
|---|---|---|
| 2008年10月15日 | −9.0% | 10月13日に+11.6%(2日前)、10月28日に+10.8% |
| 2020年3月16日(コロナ) | −12.0% | 3月13日に+9.3%、3月24日に+9.4% |
| 2020年3月12日 | −9.5% | 翌日3月13日に+9.3% |
🎯 つまり、暴落日を避けようとして売れば、同じ週に来る大反発も逃す確率が極めて高い。
暴落と反発はコインの表と裏。片方だけ取って片方だけ避けるのは、構造的にほぼ不可能なのです。
② 「2回連続で当てる」必要がある
仮にあなたが「来週暴落が来そうだ」と察知できたとします。それでも勝つには、2つのタイミングを連続で当てる必要があります。
- 売るタイミング:暴落の直前(早すぎれば上昇を逃し、遅すぎれば暴落に巻き込まれる)
- 買い戻すタイミング:底値圏(早すぎれば二番底に巻き込まれ、遅すぎれば反発を取り逃す)
仮にそれぞれの成功率が50%だとしても、両方当たる確率は 50% × 50% = 25%。これを毎回の暴落で繰り返す必要があります。
10回繰り返せば、すべて当たる確率は 0.25の10乗 ≒ 0.00009%。宝くじレベルの確率です。
③ 売買コストと税金が、理論値を削っていく
仮にタイミングを当てられたとしても、現実には毎回コストがかかります。
- 日本の特定口座:売却益に対して約20.315%の税金(所得税15.315% + 住民税5%)
- NISA枠を使っていれば非課税だが、売却した分の枠は翌年まで戻らない
- 取引手数料(ネット証券では小さいが、頻繁に売買すれば積み上がる)
- 売り値と買い戻し値のスプレッド(特にETFや個別株)
BofAの分析は「税金もコストもゼロ」の理論値です。現実に売買すれば、毎回利益の20%が削られていく。
複利で増やすべきお金が、税金として国に持っていかれる ── これが想像以上に効きます。
3. プロでも勝てない ── SPIVAレポートが示す現実
「いやいや、プロなら暴落を読めるはず」と思うかもしれません。でも、データはそれを否定しています。
S&P Dow Jones Indices が毎年発表している SPIVAレポートによると:
| 期間 | 米国株アクティブファンドが市場平均に負けた割合 |
|---|---|
| 1年 | 約55% |
| 5年 | 約75% |
| 10年 | 約85% |
| 15年 | 約90% |
🏆 経済のプロ・企業分析のプロ・トレードのプロが、毎日何時間もかけて運用しても、15年で9割が市場平均に負ける。
また別の話ですが、リーマンショックの後暴落を狙って利益を得ようとするいわゆるブラックスワンファンドが流行りました。でも多くがその後十年にわたる上昇相場の途中で経営が立ち行かなくなり消えていきました。
これが「タイミング売買の難しさ」の何よりの証拠です。プロですら勝てないことを、個人投資家がスマホ片手にやって勝てるでしょうか?
4. 「個人ならではの優位性」という幻想
よく言われる反論に、こんなものがあります。
- 「プロは大きすぎて動けないけど、個人は身軽だから勝てる」
- 「SNSの情報網があれば、暴落の兆候を早く察知できる」
- 「テクニカル分析を使えば、底と天井が分かる」
気持ちは分かります。でも、ここで冷静に考えてみてください。
もし本当にそれが可能なら、世界中のヘッジファンドが真っ先にやっています。彼らは年間数十億円のシステム投資・人材投資をして、ナノ秒単位で市場を分析している。それでも勝率は5割程度です。
個人がスマホとSNSで勝てる、という前提自体を疑う必要があります。
行動経済学の有名な研究 "Trading Is Hazardous to Your Wealth"(Barber & Odean, 2000)では、個人投資家のうち取引頻度が高い人ほどリターンが低いことが統計的に示されています。
- 取引頻度トップ20%の個人投資家:年率リターン +11.4%
- 取引頻度ボトム20%の個人投資家:年率リターン +18.5%
動けば動くほど、負ける。これが個人投資家の現実です。もちろん例外的な一部の天才や運のいい方はいます。
5. じゃあ、どうすればいいのか
ここまで読んで、こう感じた人もいるかもしれません。「結局、暴落で資産が半分になっても、ただ見てるしかないの?」
答えは Yes、そしてそれが最適解です。具体的には:
- 最初に「自分が耐えられる下落幅」でリスクを取る
株式100%が怖いなら、債券や現金を混ぜる。30%下落しても眠れる配分にしておく。 - 分散されたインデックスファンドを選ぶ
個別株のように「ゼロになるリスク」がほぼない。S&P500やオルカンなど。 - 暴落が来ても、売らない・むしろ淡々と買い続ける
暴落中こそ、未来の急反発日を取り逃さない最大のチャンス。 - ニュースを見る頻度を減らす
暴落時のメディアは恐怖を煽る。情報を絶てば、狼狽売りも減る。
一部の天才や運のいい方はオプションや先物、売りなどを用いて成果をあげることができますが、投資家全体としてはこれまでのデータが示す通り、失敗することの方が多い傾向があります。
余談ですが、成功しているタレブやナーゲルのブラックスワンワンド・ユニバーサを、
S&P500・97%、ユニバーサ3%で持つと(普段はややS&P500に劣後しますが、暴落時に大きく利益をあげるため) 2018年2月までの10年間で年率12.3%の複利リターンを達成し、S&P500を上回ったとWSJが報じていました。コロナショックの時も似たような報道がでてましたね。このように、成功する人やファンドはあります。
でもユニバーサを目指して消えてったファンドが大多数です。数少ない成功例だから目立つし報じられるのです。
6. よくある質問
Q1.「明らかにバブルだと分かる時くらい、売ってもいい?」
「明らかにバブル」と全員が思っている時点で、すでに価格は反映済みのことが多いです。ITバブルもリーマン前も、途中で「これは異常だ」と気づいた人は結構いましたが、多くは、その後さらに数ヶ月〜1年以上の上昇を取り逃しました。
どうしても気になるなら、「全て売る」ではなく「新規買い付けの一部を現金にしておく。少しだけ売る」程度に留めるのが無難です。
Q2.「リバランスはタイミング売買じゃないの?」
違います。リバランスは「市場予測ではなく、配分比率を機械的に戻す作業」です。年1回あるいは5%資産配分がずれたら株式と債券の比率を元に戻すだけ。これは長期データでも一定の有効性が確認されています。
詳しくは別記事「【投資の常識】リバランスは「年1回+5%」でOK!不要論まで完全解説」をご覧ください。
Q3.「暴落シグナル(逆イールドなど)が出たら売っていい?」
逆イールドは過去に高い確率で景気後退を予測してきましたが、「いつ起きるか」「どれくらいの規模か」までは予測できません。シグナル発生から株価ピークまで1年以上ある例も多く、売って待つ間に上昇を取り逃すリスクの方が大きいのが実情です。
📝 この記事のまとめ
- 「暴落日だけ避ける」は理論上は最高 ── BofAの分析では「常に投資」の数倍〜十数倍のリターン
- でも現実には不可能 ── ベスト日とワースト日の約半数が同じ2週間以内に集中している
- 「売る」「買い戻す」の2回連続で当てる必要があり、毎回の暴落で繰り返すのは確率的にほぼ不可能
- 売買のたびに税金約20%とコストが削っていく
- 個人は取引頻度が高いほどリターンが低い(Barber & Odeanの研究)
- 結局、現実的に再現可能なのは「居続ける」だけ。これが最も簡単で、最も確実な戦略
「暴落日を避けたい」という気持ちは、投資家として自然な欲望です。でも、その欲望を追いかけた先には、プロですら勝てない無理ゲーが待っています。
大切なのは、暴落を予測することではなく、暴落が来ても淡々と居続けられる仕組みと心構えを最初に作っておくこと。それさえあれば、暴落はむしろ未来のリターンを生む「仕入れタイム」に変わります。
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参考データ・出典
- BofA Global Research「The Best and Worst Days」分析(S&P500、1930年代〜)
- J.P. Morgan Asset Management「Guide to Retirement」
- Hartford Funds「Timing the Market Is Impossible」レポート
- Fidelity Investments「Market Timing Studies」
- S&P Dow Jones Indices「SPIVA U.S. Scorecard」
- Barber, B. M., & Odean, T. (2000)「Trading Is Hazardous to Your Wealth: The Common Stock Investment Performance of Individual Investors」Journal of Finance
- Ned Davis Research(ベスト日とワースト日のクラスタリング分析)
※ 本記事は教育目的の情報提供であり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。過去の実績は将来の成果を保証しません。