為替リスクを忘れるな|円建てで見るS&P500の"本当の"ボラティリティ

為替リスクを忘れるな
― 円建てで見るS&P500の"本当の"ボラティリティ

📌 この記事の結論
・S&P500のリターンはドル建てと円建てで見え方が変わる
・長期で為替自体はリターンにほぼ寄与しないが、ボラティリティ(リスク)は確実に増える
・暴落時は株安+円高のダブルパンチもあり得る
・株式の為替リスクは「割り切って受け入れる」のが実務的な解。ただし「無視」とは違う

S&P500に投資をしている方の中には、過去の米ドル建てのチャートを見てパフォーマンスを確認している方もいるかと思います。しかし、私たちが実際に受け取るリターンは「円建て」です。

ドル建てと円建てでは、リターンもボラティリティも見え方が大きく変わります。この記事では次の3点を整理していきます。

  • S&P500をドル建てと円建てで見たときの、リターンとボラティリティの違い
  • バンガードのレポートと、山崎元氏の見解から学ぶ「為替リスクの本質」
  • 株式投資における為替リスクとの、実務的な付き合い方

そもそも為替リスクとは何か

為替リスクとは、外貨建ての資産を保有しているときに、為替レートの変動によってリターンが上下するリスクのことです。

例えば、1ドル=100円のときに10,000円で100ドル分のS&P500を購入したとします。株価が変わらないまま為替が1ドル=120円になれば、保有資産は12,000円相当になり、為替だけで2,000円の利益が出ます。逆に1ドル=80円になれば、株価が変わらなくても8,000円相当に目減りします。

つまり、外国株に投資する以上、私たちは「株価の動き」と「為替の動き」という二つの変動要因を同時に背負うことになります。

「円安だから儲かる」は半分正しく、半分間違い

近年は円安が続いたため、「外国株は円安で儲かる」というイメージを持つ方も多いと思います。たしかに過去10年程度を切り取れば、円安はS&P500の円建てリターンを押し上げました。

しかし、為替は一方向に動き続けるものではありません。円高に振れる局面では、株価の下落と円高がダブルで効いてリターンを毀損します。後ほど見るように、リーマンショック時の日本人投資家はまさにこのダブルパンチを受けました。

S&P500のドル建てリターンと円建てリターンを比較する

ここからは実際のデータで見ていきます。S&P500のドル建てと円建てで、パフォーマンスがどう違うかを確認します。

累積リターンの推移

【グラフ①】S&P500の累積リターン(ドル建て vs 円建て)

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このグラフから、長期で見るとドル建てと円建ての累積リターンは、ある程度近い水準に収束していくということがわかります。その一方で、時期によっては大きく乖離する局面もあります。

つまり短期的には差が出る場面もありますが、
数十年単位では為替の影響は相対的に小さくなっていきます

年率リターンとボラティリティの比較

【グラフ②】ドル建て vs 円建て|リターンとボラティリティ

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注目してほしいのは、リターン以上にリスク・ボラティリティ(年率標準偏差)の差です。

S&P500そのもののボラティリティはおおむね年率15〜18%ですが、円建てで見るとさらに数ポイント上乗せされます。リターンは大きく増えないのに、値動きの幅は確実に広がっているということです。これが「為替リスクは追加的なリスクである」と言われる理由です。

※ 数値は分析期間によって変動します。

暴落時に何が起きたか|リーマンショックとコロナショック

平時には気にならない為替リスクですが、暴落時には牙を剥きます

リーマンショック(2008年)|株安と円高のダブルパンチ

2008年のリーマンショックでは、S&P500はドル建てで約37%下落しました。同時に、リスクオフの円買いが進み、ドル円は約110円から約90円まで急落しました。

💡ドル建てで -37%、為替で -18% 程度。
掛け合わせると、円建てで見たS&P500は -50%近い下落 となりました。

コロナショック(2020年)の例

コロナショックでも、短期的には円高方向に振れる局面がありました。下落幅自体はリーマンほどではありませんでしたが、この時も為替がやや不利に働きました。一方、2022年の下落の際は逆に円安が有利に働き為替がクッションとなりました。

【グラフ③】S&P500ドローダウン比較(ドル建て vs 円建て)

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為替リスクは追加リスクで、有利にも不利にも働きますが、特に「円安だから外国株のリターンがよい」と油断している時期ほど、いざというときの円高リスクを忘れないようにしたいところです。

バンガードのレポートが示した「為替リスクの本質」

世界最大級の運用会社であるバンガードが、以前興味深いレポートを公表していました(現在は公開停止中)。1985年〜2017年のデータをもとに、為替リスクが資産クラスに与える影響を分析したものです。

ポイントを要約すると、次の通りです。

  • 株式・債券の両方で、為替自体はリターンにほとんど寄与しない
  • しかしボラティリティに対しては、特に債券で大きな影響を与える
  • 海外債券は為替ヘッジを行うべきと論証することが比較的容易
  • 海外株式は、目的・ヘッジコスト・投資家の許容度次第
  • リターンを追求する投資家ほど、ヘッジを行わない傾向がある

「通貨自体にはリターンは組み込まれていない」

レポートの中で個人的に重要だと思うのが、次の指摘です。

長期的に見て、為替自体には本質的なリスクはない。為替には利回りも、利子も、増益率もないからだ。為替は国内経済、インフレ、利率、そして政府の方針を反映するものだ。これらの要因が、どのような状況にあるかは国により異なるものの、為替(通貨)の「本質」には、リターンは組み込まれていない

つまり、為替リスクを取ること自体にはリスクプレミアム(リスクを取る対価としての期待リターン)が存在しません長期的には、為替はトータルリターンには寄与せず、リスク・ボラティリティだけを押し上げる存在といバンガードは指摘しています。

そして、実務的な結論として債券はそもそも値動きが小さいため、為替の影響が相対的に大きく表れます。だからバンガードは「外国債券はヘッジしたほうがよい」。一方で株式は元々のボラティリティが大きいため、為替の影響が相対的に小さくなるため為替リスクを許容でき、投資家毎に目的やヘッジコストとの兼ね合いで判断すべきと結論付けています。

山崎元氏の見解|為替リスクは「追加的なリスク」である

もう一つ、参考にしたいのが故・山崎元氏が楽天証券トウシルに寄稿していた記事です。為替リスクに対する氏の考えが端的にまとめられています。

参考:投資と為替リスクについて考える(楽天証券トウシル)

ポイント①|為替がいつも味方になるとは限らない

米国株式をはじめとする外国の株式に投資信託などを通じて投資している方が多いが、彼らは、株価の下落が円安で救われた格好になっている。場合によっては「為替リスクは、株価下落のヘッジになる」と思っているかも知れない。この認識は危ない。多くの場合は異なるはずだ。為替リスクは原則として「追加的なリスク」だ

近年の円安局面で外国株を持っていた方は、株価が多少下がっても円安で評価額が下がりにくい経験をしているかもしれません。しかし、これは長期的に見れば例外的な状況です。リーマンショックのように、株安と円高が同時に来る局面もあるということを忘れてはいけません。

ポイント②|過剰反応しすぎないこと

全く外貨建て資産に投資していない人は、「円安でインフレになっている」というニュースを見て、インフレヘッジのために外貨建ての資産を持たなければならないのだと思い始めているかも知れない。日本の対GDP輸入比率は案外大きくない。資産をインフレヘッジのために大きく外貨シフトするのは過剰反応だ

逆方向の過剰反応への警告です。円安ニュースに焦って、生活基盤が円ベースであるにもかかわらず、急に資産を外貨に大きくシフトするのはバランスを欠いた判断になりがちです。

ポイント③|人から勧められた外貨建て商品には注意

外貨建ての資産運用商品は、仕組みが複雑で投資家が勘違いしやすい落とし穴が複数あり得る。また、為替も含めて実質的な手数料を取ることが出来る場所が複数生じる場合が多く、概して手数料は高い。「(対面営業や口コミで)人間が勧めてくれる外貨建て運用商品は全て断る」と決めておくことをお勧めする。

外貨建て保険、外貨建て仕組債、毎月分配型の外貨建てファンドなど、対面営業で勧められる商品は手数料が高いものが多いのが実情です。自分で理解できる商品だけに投資する、という原則を守ることが重要です。

機関投資家も「割り切って」投資している

為替リスクについては「プラスに働く時と、マイナスに働く時があっても、長期的には損得ゼロだろう」とある種の理屈の下に考えて、また同業者が同じポジションであることの影響もあって、外貨建て資産の為替リスクはノーヘッジでいいと「割り切って」投資しているのが多くの基金の現状だ

大規模な年金基金などのプロでさえ、株式の為替リスクは基本的にノーヘッジで「割り切って」運用しているというのは、個人投資家にとっても参考になる姿勢です。

為替ヘッジ付き投信は解決策になるのか

「それならヘッジ付きの投信を選べばいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、株式投資においてヘッジ付きを選ぶのは、必ずしも合理的ではありません

ヘッジコストの仕組み

為替ヘッジには、おおむね「日米の短期金利差」に相当するコストがかかります。米国金利が日本より高い局面では、ヘッジコストは高くなります。

近年は米短期金利と日本の短期金利の差がおおむね年4〜5%程度。直近ではやや差が縮まってきましたが、為替ヘッジ付きのS&P500投信を保有すると、ヘッジコストとして年4〜5%が継続的に差し引かれることになります。

株式の期待リターンを毀損する

S&P500の期待リターンを年7%程度と仮定すると、ヘッジコスト4〜5%を差し引くと残るリターンはわずかです。長期投資の主目的が資産形成であるなら、ヘッジコストを払い続けるのは合理的とは言えません。

これがバンガードの結論「株式はヘッジコストと許容度次第」の中身です。

リスクを抑えるため、あるいは今後の為替の動きを予想してなど様々理由はありますが、最終的にはこのヘッジコストを正当化できるか、許容できるか、という投資判断になります。
なお、ヘッジコストは市場環境によって変化します。

結論|株式の為替リスクは「割り切って受け入れる」が実務解

ここまで見てきた内容を踏まえた、筆者の率直な結論です。

S&P500のような外国株式に投資する以上、為替リスクは「割り切って受け入れる」のが実務的な解だと考えています。理由は次の通りです。

  • 長期で見れば、為替自体はリターンにほぼ寄与しない(バンガードのデータ)
  • 株式のボラティリティは大きく、為替の上乗せ分は相対的に小さい
  • ヘッジコストを払うと、長期の期待リターンが大きく毀損される
  • 大規模な機関投資家ですら、株式は基本ノーヘッジで運用している

ただし「無視」ではなく「認識して受け入れる」

重要なのは、為替リスクを「無いもの」として扱うのではなく、「ある」と認識した上で受け入れることです。具体的には次のようなことを意識します。

✅ 為替リスクとの付き合い方チェックリスト
☑ 円建てで見たボラティリティはドル建てより数ポイント高いと理解している
☑ 暴落時には株安と円高のダブルパンチが来る可能性を覚悟している
☑ 生活防衛資金は円で確保している(生活基盤は円のため)
☑ 円安・円高ニュースに過剰反応しない
☑ 人的資本(円建ての収入)など人生全体で為替を考える

山崎元氏が「これから来るかもしれない円高への巻き戻しに対して、何もしなくていいのかには些か躊躇がある」と書いていたように、長期投資家でも現状認識は怠らないほうがいいでしょう。山崎元氏はヘッジを考え出していたのかもしれませんね。

いずれにしても「割り切る」と「知らないで無視する」は違います

よくある質問

Q1. 新NISAでは為替ヘッジあり・なしどちらがいいですか

長期での資産形成が目的なら、株式インデックスは基本的にヘッジなしを選ぶのが一般的です。長期では為替の影響は少ないと予想されること。ヘッジコストがリターンを押し下げることが理由です。

Q2. 円安が進んでいる今、米国株を買うのは損ですか

「割高で買いたくない」という気持ちは理解できますが、為替の方向を当て続けることは困難です。長期投資を継続するなら、為替のタイミングを計るより、できるだけ早く資産配分を完成させたりルール通り淡々と積み立てるほうが理屈的にも過去の結果的にも有利になることが多いです。

Q3. オルカンならS&P500より為替リスクは小さいですか

オルカン(全世界株式)は米ドル以外の通貨も含むため、通貨分散の観点ではややリスクが分散されます。ただし、構成比の約6割は米ドル建て資産ですし、約95%が外国株ですので、為替リスクそこまで大きく減るわけではありません。

Q4. 為替予約や為替ヘッジETFを個人で使うべきですか

普通の個人投資家がFXや先物を用いて短期的な為替変動をヘッジしようとしても、コストと手間に見合いません。一部ガチ勢の知り合いでやっている方がはいますが、普通の一般的な個人投資家であれば長期投資においては、ヘッジを使わず、生活防衛資金や債券などの円建て資産でバランスを取るほうが現実的です。

【余談】日本株には為替リスクがないと言われます。実際それは表現や日本語としても、投資の理論や理屈としても全く間違っていません。が、実際にはTOPIXも日経平均も為替に影響を受ける企業の割合が大きいため、為替の影響で株価指数が上下することがよくあります。

日本株は為替の影響がない(←企業による。株価指数は割と影響される)ということを、油断せず、投資初心者の方は覚えておくといいでしょう。

まとめ

  • S&P500は円建てで見ると、ボラティリティがドル建てより上がる
  • 長期では為替自体のリターン寄与は小さいが、ゼロではない
  • 株式の為替リスクはノーヘッジが実務的な合理解(機関投資家もそうしている)
  • 債券はヘッジ推奨(バンガードの結論)
  • 「為替リスクは割り切って受け入れる」が、それは「知らない」「無視する」とは違う

為替リスクは、外国株投資をする以上、避けては通れません。コストを払って消そうとするより、認識した上で長く付き合っていくのが、結局のところ最も合理的な選択になると考えています。

株式ポートフォリオだけではなく、金融資産全体(預貯金は円建てなど)や、労働収入など人的資本(多くの日本人の場合は円建て・円ベースのインカム)を含めて、人生の全体で為替リスクを捉えることが大切です。

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📚 参考データ・出典

  • Vanguard「為替リスクに関するレポート」(現在は閲覧不可)
  • 山崎元「投資と為替リスクについて考える」楽天証券トウシル
  • S&P Dow Jones Indices 公表資料
  • Yahoo Finance(S&P500、USD/JPY 月次データ)