
長期投資で「リスク」は減らない──初心者がいちばん最初に知るべき2つのリスクの正体
「長期投資ならリスクが減る」── これ、半分ウソです。
YouTubeでも本でも、よく聞きますよね。「長期・分散・積立なら安心」「20年持てばマイナスにならない」と。
でも、これを真に受けると判断を間違えます。
なぜなら、「リスク」という言葉が2つの意味でごちゃ混ぜに使われているから。この記事では、初心者の方でも混乱しないように、投資における「リスク」を一度ちゃんと整理します。
読み終わる頃には、SNSやYouTubeで流れてくる「長期投資はリスクが少ない」という言葉に、ちゃんと自分の頭で「それ、どっちのリスクの話?」とツッコめるようになります。
1. そもそも「リスク」という言葉が、2つの意味で使われている
まず、ここが全ての混乱の元凶です。
私たちが日常で使う「リスク」と、投資の世界で使う「リスク」は、実は意味が違います。
| 呼び方 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|
| リスク①(ブレ幅) | 上下にどれだけ動くか(標準偏差) | ジェットコースターの揺れ幅 |
| リスク②(危険性) | 元本が減る可能性 | お金が目減りする恐怖 |
日常語の「リスク」は「危険性」のこと。感染リスク、事故リスク──どれも「悪いことが起きる可能性」を指します。
でも、投資・統計の世界での「リスク」はブレ幅(変動の大きさ)を指します。プラスに大きく動くのも、マイナスに大きく動くのも、どっちもリスクです。
なぜこんな混乱が起きたのか?
これは英語の risk を日本語に訳すときに起きた、翻訳の事故みたいなものです。英語では文脈で使い分けられても、日本語の「リスク」という1単語に押し込めた結果、両者が混同されるようになりました。英語だとブレ幅のことをボラティリティーと言ったりもしますね。
💡 あなたが混乱してきたのは、あなたのせいじゃありません。用語が悪いんです。
この2つを区別できるようになるだけで、クリアに見えてきます。
2. 直感編:コイン投げで「ブレ幅」を体感する
まずは「リスク①=ブレ幅」から。
コインを投げて、表なら+100円、裏なら-100円もらえるゲームを想像してください。
- 1回だけ投げる → 結果は最大±100円
- 100回投げる → 結果のブレは±1,000円くらいに広がる
- 10,000回投げる → さらに広がる
直感に反するかもしれませんが、回数(時間)が増えるほど、結果の幅はどんどん広がっていきます。
なぜか? 未来の可能性が枝分かれしていくからです。
例えば、1歩歩いて行ける場所と10歩歩いていける場所、100歩歩いて行ける場所・・・歩数が増えるたびに、行くことのできる場所(未来)の可能性は広がっていきます。
株価も同様で今日から1日後の株価の上下の幅より、今日から10年後の株価の上下の幅の方が大きくぶれる可能性があります。
🎢 時間が長い=安定する、ではありません。むしろ揺れ幅は拡大します。
3. 数学編(やさしく):√Tの法則
ここだけ、ちょっと数式を出します。1個だけなので我慢してください。
σ_T = σ_1 × √T
意味は超シンプルで、
📐 ブレ幅(標準偏差)は、時間の平方根(√T)に比例して大きくなる
仮に、株式の1年間のブレ幅を20%とすると…
| 期間 | ブレ幅の目安 |
|---|---|
| 1年 | ±20% |
| 4年 | ±40%(20×√4) |
| 9年 | ±60% |
| 25年 | ±100% |
つまり、長期になるほどブレ幅は確実に拡大する。
将来の可能性の幅(リスク)は長期になればなるほど広がります。「長期投資すれば安定する」というイメージとは真逆かと思いますが、これは数学的な事実です。
※ これは年ごとのリターンが独立していると仮定した単純化モデルです。実際の市場には平均回帰などの要素もあるという指摘などいろいろ議論がありますが「長期になるほどブレ幅(最終資産額の散らばり)が拡大する」という結論は、ほとんどのケースで成立します。
4. じゃあ「損する確率」はどうなる?
ここで、もう1つのリスク(リスク②=元本割れの危険性)に切り替えます。
ざっくり言うと、こうです。
✅ 株式の期待リターンはプラス(世界経済が長期的に成長していく前提)
✅ 時間が経つほど、平均は右上に動いていく
✅ 一方でブレ幅も広がる
✅ でも「平均が右に動くスピード」が「ブレ幅の拡大スピード」を上回る局面では、元本割れ確率は徐々に下がっていく
つまり、長期投資には「損しにくくなる方向」の力もちゃんと働いている、ということ。
✅ だから長期投資は「合理的」ではある。
ポイントは元本割れの確率は長期投資をすることで下がります。
ただ、元本割れする確率が0になるということではありません。
確率が下がるのとゼロになるののは、全然違うので注意が必要です。
と、ここちょっと難しいですよね。言葉だけだとイメージしづらいかもしれません。
「なぜ元本割れ確率が下がるの?」という仕組みを、中学生でもわかるレベルで図解した別記事を用意しました。よくわからなかった。気になるという方はこちらをどうぞ。
5. 最重要:「20年持てば負けない」は、本当か?
さて、ここが本記事の山場です。
5-1. よく見る主張
「S&P500を15年・20年保有すれば、過去にマイナスになったことはない」
YouTubeでも本でも、これ100回くらい見ますよね。
5-2. でも、冷静に考えてみてください
米国株のまともなデータは、せいぜい100年ちょっと。その中に独立した20年は、たった5回しかありません。
たった5サンプルで「絶対大丈夫」と言えるでしょうか? 普通の統計の感覚なら、これは圧倒的にデータ不足です。統計学の常識: わずか5つのサンプルで「未来の勝率が100%に近い」と断じるのは、科学的なエビデンスとしては非常に脆弱です。
これを補うために、知ってか知らずか、「どの20年間を切り取ってもプラスだった」という検証は、1年ずつ開始時期をずらす手法が一般的です。投資本や最近だとYOUTUBE等でもよく見かけますね。
でも、1901年〜1920年と1902年〜1921年のデータを比較した場合、その間の19年間は全く同じデータを使い回していることになります。
統計学的には「独立していないデータ」をいくつ並べても、新しい知見は得られません。これは「同じテスト結果を少し角度を変えて何度も見ている」だけであり、サンプル数が増えたことにはなりません(データの自己相関)
もちろん、このデータ不足を補うために、学術的には数万回の「モンテカルロ・シミュレーション」などを用いて、過去のパターン以外の可能性も検証されています。
5-3. 晴れと雨のたとえ
ここで、わかりやすい例えを1つ。
72時間ずっと晴れていた。
その中から「どの連続20時間を切り取っても晴れだった」と言って、
「だから今後も20時間は絶対に晴れる」と言えるだろうか?
言えませんよね。だって、4日目に雨が降る可能性は普通にありますから
「過去20年の連続データではマイナスがなかった」というのは、これと同じ構造の話なんです。データの中身が薄いのに、サンプルの数だけ多く見えてしまっています
5-4. 実際の反証データ
「いや、それは理屈の話でしょ?」と思うかもしれません。でも、実例があります。
- 日経平均は1989年末に38,915円をつけた後、その水準を超えるのに約34年かかりました
- 1989年の高値で買った人は、30年以上含み損を抱えていたわけです
- もちろん、これは株価指数の話で、実際には配当込指数ではもう少し早く、その配当再投資や追加投資をすればもっと早く元本は回収できましたし、あくまでもバブルのピークで買ったという極端な事例ですが
- それでも「長期で持てば必ずプラス」と油断してはいけないという教訓となります。
「いや、米国株なら大丈夫」「全世界株なら大丈夫」──そう思いたい気持ちはわかります。
でもそれを言うには、米国株や全世界株が今後50年、100年も同じパフォーマンスを出すという保証が必要です。誰がそれを保証できるでしょうか?
5-5. リスクプレミアムから考える
もう1つ、理屈から考えてみましょう。
仮に「20年持てば絶対プラス」と元本が保証された金融商品があったとしたら、それは格付けのすごく良い国債並みの低リターンになるはずです。
逆に言うと、株式が高いリターンを期待できるのは、マイナスになる可能性が消えていないから。これをリスクプレミアムと呼びます。
⚠️ リスクとリターンは表裏一体。
「20年でほぼ絶対プラス」かつ「年率5〜7%」なんて夢の商品は、原理的に存在しません。
これは経済学の基本中の基本で、ここを理解していないと、いつか「うまい話」に騙されます。
6. 結論:長期投資の「正しい理解」
ここまでをまとめます。
| 長期投資すると… | どうなる? |
|---|---|
| リスク①(ブレ幅) | 拡大する |
| リスク②(元本割れの危険性) | 下がりやすい。ただしゼロにはならない |
| 期待リターン | プラス方向に伸びる |
つまり、長期投資は
❌ 「安全になる」
⭕ 「時間と共に勝ちやすいゲームに変わる」
これが正しい理解です。
7. 初心者の方へ──最後に伝えたいこと
ここまで読んで、「え、じゃあ投資しないほうがいいの?」と思った方もいるかもしれません。
違います。
長期投資は「安全」ではありませんが、合理的な選択肢です。否定したいのではなく、正しく理解した上でやってほしい。と私は思います。
そのために、3つだけ覚えて帰ってください。
① 過度な期待をしない
20年積み立てても、マイナスで終わる可能性は普通にあります。「絶対大丈夫」と思って始めると、暴落で必ず心が折れます。
② 自分のリスク許容度を知る
資産が一時的に半分になっても、淡々と積立を続けられますか? これに「YES」と即答できないなら、株式100%は多すぎるかもしれません。
③ 資産配分で調整する
株式の比率を下げて、債券や現金を持つだけで、ブレ幅は大きく抑えられます。「長期・分散・低コスト」の「分散」は、銘柄だけでなく資産クラスの分散でもあるんです。
📌 この記事のまとめ
- 「リスク」にはブレ幅と元本割れの危険性の2種類がある
- 長期投資するとブレ幅は拡大する(√Tの法則)
- 元本割れ確率は下がりやすいが、ゼロにはならない
- 「20年持てば負けない」はデータ不足。確証はない
- 長期投資は「安全になる」のではなく「勝ちやすいゲームに変わる」だけ
- 過度な期待を捨て、自分のリスク許容度に合った資産配分を組もう
長期投資は「安全になる」のではなく、
「勝ちやすくなるが、最終結果の振れ幅は大きくなるゲーム」になるだけ。
この事実を受け入れた上で、過度な期待を手放し、自分のリスク許容度に合った資産配分を組む。
これができれば、あなたはもう「初心者」ではありません。SNSの煽りにも、暴落のニュースにも、振り回されないベテラン投資家の入り口に立っています。
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本記事は投資判断を提供するものではなく、特定の金融商品を推奨するものではありません。投資はご自身の判断と責任で行ってください。