【「効率的フロンティア」の落とし穴】
シーゲル教授の名著「株式投資」のなかに、
米国株と米国以外の国の株をどう配分知れば、
リスクとリターンが最適になるかを表した
リスクとリターンが最適になるかを表した
「効率的ポートフォリオの定量分析」という項があります。
米国と米国外株式(EAFE指数)の過去の利回りやリスクを分析し、
「最適」あるいは「最も効率的」なリスクとリターンのポートフォリオを構築しようという項目です。
とても素晴らしい研究成果なのですが
今日は恐れ多くも、シーゲル教授の結論に少しだけ「補足」させて貰おうと思います。
【効率的ポートフォリオとは?】
まずは補足の前にシーゲル教授の主張を簡単に復習したいと思います。
シーゲル教授は「1970年~2006年」の間のデータを分析し以下のように結論づけています。
〇米国株のリターンは複利べ―スで10.84%
〇米国外株のリターンは複利ベースで11.57% (リスクも高かった)
そして米国外株には以下の2つの追加リスクがあると指摘します。
〇その国の価格変動に伴うローカルリスク
〇ドルに変換するときの為替リスク(米国視点で書かれているので)
為替リスクに関しては、日本人から見れば米国株にもかかるリスクですね
そのうえで、シーゲル教授の結論は、
最もリスクとリターンのバランスが最適となる、
最高のポートフォリオは
最高のポートフォリオは
米国株62.2% 米国外株37.8%
リスクが最小となるのは
米国株77.5% 米国外株 22.5%
米国株77.5% 米国外株 22.5%
とまとめています。
注意点
〇為替リスクをどうとらえるかで少し結果は変わる。(全く無視すれば米国外株52.6%が最高となる。)
〇最新版だと若干数字が異なります。
【本題】
さて、この素晴らしい研究結果に少し捕捉を付け加えたいと思います。
まず前提として、このデータの注意すべき点の一つは、研究期間の意外な短さです。
シーゲル教授の研究と言えば、
過去200年間だったり、1926年~だったり、かなり長期に及ぶことが多いのですが
(それでも長期投資の統計データとしては不十分なのですが・・・)
過去200年間だったり、1926年~だったり、かなり長期に及ぶことが多いのですが
(それでも長期投資の統計データとしては不十分なのですが・・・)
この効率的フロンティアに関しては、たった36年間のデータとなっています。
これをどう捉えて、判断するか、正直難しいところです。
ただ、バンガードを含めて、シーゲル教授以外の信頼できる研究でも、だいたいは米国株に30~40%前後、米国株に米国以外の地域の株式を加えると良いいう結果になる場合が多いです。
「効率的フロンティア」の罠。意外な盲点とは
シーゲル教授の研究期間内からとある10年間を切り取ってみました。
〇1978年から1988年までの10年間
米国 100% リターン 16.2% リスク 16.4%
米国外 100% リターン 22.3% リスク 17.0%
最も効率的なポートフォリオ(10%単位)
米国50% 米国外50% (リターン 19.6% リスク 14.4%)
この10年ではシーゲル教授の結果と少し異なった割合が「最適」だということがわかります。
ではこの最適な(米国50%、米国外50%)の割合で、
次の10年(1989年~1998年)を過ごしてみたらどうなるでしょう。
〇1988年から1998年末までの10年間
米国株 100% リターン 19.2% リスク 12.2%
米国外株 100% リターン 5.8% リスク 16.9%
結果は年率リターン11.4% リスク 12.6%となりました。
ですが、この10年間において最も効率的なポートフォリオは
米国80% 米国外20% (リターン 16.6% リスク 11.8%)
となりました。
ここまでで注目してほしいのは、
前回の10年間最も効率的だった比率のポートフォリオは、
次の10年間ではあまりリターンもリスクも効率的ではなくなってしまったということです。
実際、10年間の年率リターンにして5%以上の差がでています。
複利を知っている方なら、10年で年率リターンが5%違うとどのくらい資産の加速に差が出るかわかると思います。
米国が優れていて米国以外が絶対に必要ないかと言われると、そうわけでもありません。
時期によっては、間違いなく米国外を加えた方がリターンが改善し、
ボラティリティが抑えられたりします。
ボラティリティが抑えられたりします。
かの悪名高いブリックスですら、
2001年以降のリターンで比較するとS&P500やNasdaqといい勝負していたりもします。
2003年からにすると以下の通り。
【まとめ】
「効率的フロンティア」理論の問題点は、極めて少しの違いで、ある比率が最適になったり、非効率なポートフォリオになったりするという点にあります。
つまり、これから将来、例えば次の10年に起こり得る、些細なリスクによって、過去最適だった「効率的なポートフォリオ」が一転し、かなり非効率なポートフォリオに変化する可能性もあるということです。
数年前に計算した時には、2010年代は米国100%に近いPFがリスクもリターンも良い結果となりましたが、
未来がわからないものである以上、
過去、そして今最も効率的な米国と米国外のポートフォリオの割合が絶対に良いという保証は、思っているよりずっと少ないということを理解しなければなりません。
画像のように10年で大きく効率的フロンティアは移動してしまうことはよくあるわけです。。
参照 インデックスファンドの時代
いくらシーゲル教授の研究とはいえ、またその対象期間の短さもあり、著書「株式投資」にある「効率的フロンティア」の比率をそのまま鵜呑みにするのは少し考えた方がいいかもしれません。
「効率的フロンティア」米国と米国外の比率は何対何が最適かというのは、時期やリスク(ボラティリティ)によって大きく変わります。
米国外に分散してリスクを減らしつつパッシブに運用しているつもりが、「未来の最適比率当て予想ゲーム」に意図せず参加することになったりしないよう注意しましょう。
シーゲル教授は「株式投資の未来」において米国外の株式を20%ポートフォリオにいれることを提案していました。
私の尊敬するボーグル氏は、ボーグル氏自身は最後まで米国株式のみで充分派でしたが、投資家には20%までなら米国外株式をいれてもよいとしていました。
ただ、これらはいずれも米国に住む米国投資家に向けて書かれたメッセージという点も考慮する必要はあります。
米国か米国以外の地域の株式かについて、もし明確な理由や信念があり、確固たる投資哲学があるのなら、貫いてください。
否定も反対もしませんし、できないものだと思います。
ただ、あまりにポートフォリオの最適なバランスや効率性を求めすぎると、それに振り回されたり、過去や今はよくても10年後劣後してしまったりと、あまりろくなことにならないかもしれません。
「上昇相場の中の現金」のように、「今」思える、ある程度の無駄や非効率さがクッションとなることもあります。
「中庸」といいますか、「好い加減」といいますが、「いい塩梅」といいますか「効率的フロンティア」に関しては厳密さを追求するよりも、
余裕をもって、このくらいかな~と参考にするくらいで丁度いいのかもしれません。
人員ギリギリで回している工場は、たった一人のインフルエンザが致命傷になります。
効率を追求するあまり逆に脆くなったり、「何か」あった時に効率性が致命傷にならぬよう、日々気をつけつつ、余裕をもって投資をしていきましょう。
私自身は、元々バリュー投資家なので、気持ち的には割安な地域を多めに配分したくなりますが(笑)
コストや手間などを考えて、普通に時価総額加重を目指して投資をしていきたいと思います。
私自身は、元々バリュー投資家なので、気持ち的には割安な地域を多めに配分したくなりますが(笑)
コストや手間などを考えて、普通に時価総額加重を目指して投資をしていきたいと思います。
山崎元氏や過去の研究でもそうですが、正直何千万程度のPFであれば、米国と米国外の株式の比率を5%、10%比率をあれこれいじってもそこまで大きく結果は変わりませんから、
そこで迷うよりも、拠出額を増やすことに注力した方が効率的ともいえます。
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