【株式市場からαを]
今回は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のアレキサンダー教授の論文を紹介します。
教授は、1961年に簡単で確実に儲かる方法(になるかもしれない戦略)を学術論文として発表しました。
似たようなタイトルの投資本や動画タイトルはたくさんありますが、
これはちゃんとしたガチの論文です。
当時このうわさを聞き付けた、IBMのウィリアムズ社長が、当時、世界最高の科学者、数学者らが集まっていたIBM研究所のメンバーに、緊急調査を命じたほどでした。
「フィルター法」
アレキサンダー教授は、
伝統的な市場効率的仮説には誤りがあり、価格の変動は同じ傾向を持続しやすい。
という性質(いわゆるモメンタム)に着目しました。
「フィルター法」と名付けられた、教授の戦略はとてもシンプルな手法でした。
①市場価格が5%以上上昇したら買って様子を見る。
②5%以上下落したら売って様子を見る。
たったそれだけの戦略です。
論文によれば、
1929年から1959年までの期間、
この手法を用いていれば、
(手数料を考慮しない場合)リターンは年率平均36.8%となり
同期間の米国株式市場全体のリターンの約12倍のリターンを得る事ができた。
とのことです。
なお、教授は論文の最後に一つの懸念を示し、論文をまとめています。
「もし、すべての人がこのフィルター法に従って取引をしたらどうなるのか。という問題は、今後の課題として残しておきます」
「理論上、理論と実践の間には差はないが、実際にはある」
でも、私は心の中で密かに思うのです。
確かにそうだけれども、懸念点はそこじゃないよと。
教授とこの論文を読むと、この言葉が浮かんできます。
「理論上、理論と実践の間には差はないが、実際にはある」
論文の問題点。
教授の計算では「5%上がったところで買った」という設定しています。
しかし、実際の株価は1度に大きくジャンプすることが度々あります。
前日の終値が100ドルだったのに、良いニュースがでて、翌日の始値は108ドルになる。とか
最近では、コロナウイルス渦中の大幅な下落などが良い例かと思います。
そうすると、5%の値上がりの時点で買うつもりでも、
5.5%のところでしか買えないというケースが出てきます。
論文上では、1%の利益と教授が計算したものが、
実際には0.5%の利益にしかならなくなります。
下落時も同様です。
教授の計算では、GMの株価が前日の終値よりも6%上昇していた場合、5%きっかり株価が上がった時点で買ったことになっています。
果たして、現実にそんなことを長期間続ける事は可能なのでしょうか?
このように少しずつ理論計算とのズレが積み重なります。
たとえ小さなズレでも、積み重なっていくと、
理論と現実のギャップは大きなものになっていきます。
数学者のマンデルブロ氏は、この研究について
どの価格を使うかによって(アレキサンダー教授は毎日の終値で計算)
年間36%の利益になる場合もあるし、最大90%失うケースもあると指摘。
加えて、実際の投資にはコストがかかります。
【まとめ】
今回のオチ。
論文発表の三年後、アレキサンダー教授はこの主張を撤回しました。
自身がこの戦略を実践した後、以下のように結論付けています。
「最初の論文で利益が得られると記載したが、実際には利益はほとんど上がらなかった」
では、この3年間、教授の論文・理論を信じた投資家はどうなったのでしょう。
失った時間とお金は返ってきません。
「全ては過去。終わったことだ」と開き直おられたら優しい友人でもぶちキレることでしょう。
この教授の話は、決して古い昔話、遠い過去の話ではないと私は思います。
むしろ、インターネットやスマホが普及し、いろいろな人が情報発信をできるようになった、
今、現在の方がよりたちの悪い時代だとも思います。
第2・第3のマサチューセッツ工科大学の教授や、
それと似たようなことを囁く人も、そこかしこにたくさんいます。
というか教授ほどろくに研究していない人も山ほどいます。
そういう情報、理論、主張を聞いて、
たとえ、肩書や実勢のある人の話でも、
すぐに「これはすごい!」と興奮するのではなく、
冷静に、落し穴を見抜き、判断する知識や経験を積むことが大切だと思います。
賢者は歴史に学ぶと言います。
私も昔の投資家と同じ失敗をしないよう、
気をつけながらVOOに投資を続けていきたいと思います。
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